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慢性腎臓病

腎臓病はむくみや透析の原因として知られている病気ですが、最近、特に注目されていいます。実は、腎臓の機能低下や蛋白尿が、末期腎不全・透析の原因になるだけでなく、循環器病や死亡の原因にもなる事が指摘されたからです。そこで、腎臓病を早く発見して治療する事により、腎不全や循環器病の発症を阻止する事を目的に、慢性腎臓病という考え方が導入されました。わが国でも、多くの方が慢性腎臓病を有している事がわかってきました。ここでは、慢性腎臓病についてどのような病気か、どのように治療するかについて説明したいと思います。

 

腎臓の役割

腎臓は背中側の腰骨の上のあたり、腸の後ろに左右に1個ずつあります。腎臓には身体に不要となった代謝老廃物を尿として排泄し、血液をきれいな状態に保ち適量の水分や電解質(塩分、ミネラル)を排泄し、身体全体としてのバランスを保ち、血圧をコントロールし、身体の中にある体液の濃度・量の調節血液の酸性・アルカリ性のバランスを調節する役割があります。

 

慢性腎臓病とは

慢性腎臓病(CKD、Chronic kidney disease)は、最近提唱された比較的新しい考え方です。その定義は、尿の異常(特に蛋白尿が重要)あるいは推定糸球体濾過量(eGFR:estimated glomerular filtration rate)の低下3ヶ月以上継続した状態をさします。CKDの原因には様々な腎疾患や全身疾患がありますが、糖尿病、慢性腎炎、高血圧などが代表的です。CKDの定義を表1に示しています。腎臓の働き(腎機能)の目安は糸球体ろ過量(GFR)で示され、推算GFR(eGFR)で計算する事ができます。我が国では、eGFR60未満のCKD患者数は成人人口の約11%、約1100万人と膨大な人数です。

慢性腎臓病の定義
  1. 尿異常、画像診断、血液、病理で腎障害の存在が明らか。特に蛋白尿の存在が重要。
  2. 糸球体濾過量(Glomerular Filtration Rate: GFR)<60mL/分/1.73m2
  3. 1)、2)のいずれか、または両方が3か月以上持続する。病の定義

 

なぜ慢性腎臓病が悪いのか ~腎臓病と循環器病の関係~

近年の調査により、腎機能の低下に伴い、循環器病(心臓病、脳卒中など)による入院や死亡が増加する事が分かってきました。つまり、CKDは循環器病などの予後を規定する因子という事です。腎臓病と循環器病は互いに影響し合って悪化させている悪循環の関係にあります。その原因としては、互いを悪化させる因子に共通したものが見受けられるからです。例えば、高齢、糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙などは共通した悪化因子です。循環器病による全身の循環不全や、検査の為の造影剤の使用は、腎機能を悪化させる可能性があります。腎臓病によって、老廃物が蓄積し、カルシウム・リン代謝に異常を来すと、動脈硬化や血管石灰化が進展します。同様に高血圧のコントロールが悪化すると、心血管への負担が増大し、心肥大・動脈硬化を進展させます。腎不全に伴う貧血も、循環器疾患に悪影響を与えます。大事な事は、腎臓病と循環器病はお互いに悪循環の関係にあり、入院や死亡を増加させると言うことです。

 

慢性腎臓病の症状、予防

CKDの予防には、早期発見が大切です。腎臓は肝臓と同じように予備能力が大きな臓器のため、病状がかなり悪化しないと自覚症状はあらわれません。むくみ、尿の変化(量の増減、泡立つなど)、体がだるい、貧血、食欲がない、吐き気があるなどの症状が認められた場合には既に腎機能がかなり悪化している可能性があり、すぐに病院で検査を受ける必要があります。初期には自覚症状に頼る事はできない為、定期的な検査が重要です。まず、尿検査蛋白尿血尿を調べます。血液検査では、血清クレアチニンを測定する事により、eGFRを計算する事ができます。また、高血圧や糖尿病の程度も重要ですので、定期的な血圧測定や血液検査(血糖値、ヘモグロビンA1cなど)を行う事が大切です。こういった検査などは通常の健康診断で行われますので、健康診断の受診が勧められます。検尿や腎機能に異常が認められた場合には、腎臓専門医へ相談し詳しい検査を受ける必要があります。

 

慢性腎臓病の治療

CKDと診断されたら、適切な治療によって病気の進行を遅らせ、末期腎不全に至る事を防がなければなりません。CKDに対する治療には、①生活習慣の改善②食事療法③薬物療法の3つがあります。

生活習慣の改善

生活習慣の改善(禁煙、減塩、肥満・運動不足の解消、節酒など)は腎臓を守る基本であり、循環器疾患を予防する基本でもあります。最近注目されているメタボリックシンドロームでも、CKDが起こりやすくなるという事がわかっており、メタボリックシンドロームや高血圧の方は、肥満を改善し減塩する事が望ましいです。飲酒にも注意が必要であり、アルコールがCKDを悪化させるとの報告はありませんが、一般的な適正飲酒量(日本酒で1日1合以下)にして、大量飲酒は避けましょう。喫煙は、心臓や肺に悪影響を及ぼすだけでなく、腎機能も低下させる事がわかっていますので、禁煙を心がけましょう。水分の摂取は、かなり腎機能が低下した場合には制限が必要ですが、極端な制限は脱水を引き起こす為、勧められません。まず、十分な減塩を行った上で、主治医と相談してください。また、かぜ薬・解熱薬・鎮痛薬・抗菌薬などは腎機能を悪化させる可能性があります。CKDの方は、かかりつけ医に飲んでも良い市販薬やサプリメント・漢方薬などについて尋ねておきましょう

食事療法

食事療法はCKD治療の基盤の一つであり、塩分制限、蛋白制限、カリウム、リン制限が重要です。一般のクリニックにおいては、塩分制限が最も重要です。塩分摂取量は1日6g以下にする事が望ましいですが、主治医の指示に従ってください。食べ方の工夫(漬け物や塩干物の制限、だし汁の摂取制限、インスタント食品の制限など)、味付け(酸、香辛料など)や調理法の工夫を行う事も、減塩に有効な場合があります。腎機能がかなり悪化した際には蛋白、カリウム、リンを制限することが必要となってきますが、かなり食事内容が難しくなってきますので、総合病院等に紹介し専門的に話を聞く必要があると思われます。

薬物療法
原疾患の治療

まず、CKDの原因となった病気の治療を行う事が大切です。例えば、糖尿病・高血圧や脂質異常症のコントロールを行います。循環器疾患を有する場合も、適切な治療を受けましょう。

高血圧の治療

血圧の管理は最も重要なCKD治療の一つです。高血圧治療ガイドラインには、腎障害を伴う高血圧症の治療目標は130/80mmHg未満に、尿タンパクが1日1g以上認められる場合には125/75mmHg未満にするように勧告されています。薬剤としては、アンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンギオテンシンII受容体拮抗薬、利尿薬、カルシウム拮抗薬などを組み合わせて服用する事が推奨されています。多くの降圧薬がありますが、3種類以上内服しても降圧効果が不十分な場合、食事療法(減塩)をさらに厳格に行う事が大切です。

水、電解質の治療

腎臓にはカリウムを尿中に排泄するはたらきがあるので、腎機能が悪くなってくると体内のカリウムは高い値になります。カリウム高値は不整脈の原因になり、死亡する事もある為、食事療法とともにカリウムイオン交換樹脂の内服が勧められます同様に、高リン血症が認められた場合には、まずタンパク質の摂取制限を行います。それでも、高リン血症が進行する場合には、リンを吸着し排泄するために炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、リンゴ酸カルシウムなどの薬剤を食後すぐに服用する事が勧められます。同じ薬剤は、腎機能低下による低カルシウム血症の場合にも、内服が勧められます。活性型ビタミンD製剤は、透析導入前でも二次性副甲状腺機能亢進症の明らかな症例に開始しますが、血清カルシウム、リン値の十分な管理が必要になります。また、老廃物が蓄積し、血液が酸性に傾く代謝性アシドーシスを呈した場合には、重曹などのアルカリ剤を投与して補正します。

尿毒症物質の吸着

経口の尿毒症毒素吸着剤として、石油系炭酸水素由来の球形多孔質炭素が用いられます。消化管内のタンパク関連尿毒症性物質を吸着して体外に排泄する作用を持っています。

貧血の治療

CKD患者さんに貧血が起こった場合には、原因の検索が必要です。悪性腫瘍や消化管出血の有無を検査し、鉄分不足、栄養障害、甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏などがないかどうかを調べます。それらが認められない場合、腎臓が原因の貧血と診断されます。ヘモグロビン濃度10g/dL未満で、赤血球造血刺激因子製剤(ESA)の皮下注射を始め、ヘモグロビン10~12g/dL程度に維持する事が望ましいとされています。

 

治療薬にはどのようなものがあるか

降圧薬による治療が血管や心臓を守り、予後を改善することは明らかです。副作用が怖いとか、ずっと飲まなければいけないからいやだ、という方がいらっしゃいますが、薬を服用せずに放っておくほうがもっと危険です。降圧薬には多くの種類があり、汎用されているのは「カルシウム(Ca)拮抗薬」「アンジオテンシン変換酵素阻害薬」「アンジオテンシンII受容体拮抗薬」「利尿薬」「ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬」「ベータ遮断薬」「アルファ遮断薬」の7つのグループです。他に、中枢神経に作用する中枢性交感神経抑制薬や、血管拡張薬が用いられる場合もあります。副作用や、何か異常のある時は主治医に相談して下さい。

 

当院での治療

当院では腎臓専門医が患者さんのライフスタイルに合わせたアドバイスを心がけ、また個々の患者さんに応じて治療方法、治療薬を選択し、CKDの予防、治療を行います。詳しい検査が必要となった場合には、総合病院へご紹介いたします。

 

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